6bitの思考

自転車、モータースポーツetc... 思いついたことを取り留めもなく綴るブログ

街から書店を消してはならない

私は文学部出身だが、読書好きかと言うとそうでもない。むしろ苦手なくらいである。
文学部は今では社会の要請に答えて人文科学を広く扱うようになり、かつてのように文学こそ人文学の華であった時代とは違って読書好きでない文学生も多くなったとは思う。とはいえ論文を書くにはとにかく先行研究を読むことが大切で、否が応にも「読む」ことを強いられる。

なぜ読書好きではないかといえば理由はふたつある。ひとつは読んでみて気持ちよく入ってこない、少し格好を付けて言うと文体が自分の好みに合わない文章を読むのが苦手だからだ。
彼のファンの方には申し訳ないのだが、特に情景を克明に描写しようとするあまりに過剰に修飾された、まるで舌が痺れるほど塩辛いスープに大蒜を擦り下ろし、これまた濃い味に煮付けられた豚肉の塊と野菜をぶち込んだラーメンのような文章が好きではない。人によってはそういうものが合うのかも知れないが、とにかく僕は好きではない。
ちなみに二郎系ラーメンは好きである。

もうひとつは、せっかく面白いと思った文章でも読むのが速すぎて良い暇つぶしにならないからである。
人によっては羨ましいと感じるかもしれないが、残念ながら私の家はそれほど豊かではなく本に接する機会が少なかった。小学校の図書室などはそういった子供たちに読書の機会を提供するためにあるのだと思うが、悲しいかな小学生の頃に読書を楽しいと思った記憶が全く無い。
一方で、面白いと思った文章は一気に読み切ってしまう癖がある。両親が苦労して入れてくれた中高一貫校にする準備期間に読書マラソンという、本を読んでそのページ数の分だけマス目を塗りつぶして行く課題があったが、それを司馬遼太郎歴史小説だけで5,000ページほど進めた思い出がある。

こんな性分だから、読むという行為は楽しいがあっという間に過ぎ去ってしまうか、辛くて一向に進まないかの両極端である。先日Twitterで「今時の大学生は最短距離で“オタク”になりたがり、コスパの悪いことを嫌がる」という話が話題になったが、私にとっては読書は──この言葉は好きではないのだが、「コスパの悪い」行為だったのである。
お金を稼げるほどではないがモータースポーツと鉄道に関してはそれなりに興味と知識があり、周囲から見れば私は十分「オタク」の領域に足を突っ込んでいると思う。今にして思えばもっと読書をしてその面白さに触れることができれば、私は読書オタクになれたのかもしれない。ただ残念ながら今現在までの私はそうではない。

打って変わって、私は書店が大好きである。
一見矛盾しているようではあるが、書架がずらっと並び、同じテーマを扱う本でもどれを手に取って良いのかわからないくらいに品揃えが良い大型書店に行くと楽しくて堪らない。
それに、一人暮らしにしては珍しいのかもしれないが部屋にそれなりに大きな本棚を置いており、すっかり紙が黄ばんでしまった前述の司馬遼太郎の文庫本、大学生時代に学んだ人文地理学の書籍類とも一緒に住処を移している。どうせ読みもしないとはいえ手垢が着くほど読み込んだ本が身近に無くなるのはなんとなく寂しいからである。もはや本が好きなのか本棚が好きなのか分からないが、読書という行為が好きではなく、およそ恵まれた読書体験をしていないにも関わらずそう思うのである。
どこかで聞いた「本棚はその主の人となりを表す」という言葉は正しいと思う。その人が人生の中で経てきた出会いを背表紙で語るものが本棚であろう。

自宅の本棚が今までの出会いであれば、書店は新たな出会いの場である。
近年Amazonを筆頭に通信販売が普及したことで街の本屋さんがすっかり少なくなった。私が生まれ育った街にもそうした小さな書店があったが、残念ながらずいぶん前に閉店してしまった。
確かにインターネット書店の方が優れている点は多い。欲しい本が決まっていれば名前を入れればすぐに見つかるし、クリックひとつで注文を済ませれば届けてくれるのでわざわざ買いに出る必要も無い。せっかく書店に来たのに最後の一冊、見本替わりにされボロボロになった本を見てがっかりすることも無い。

それでも私が書店が好きなのは、ひとえに思いもよらない出会いがあるからである。目的もなく店内を歩いてみると、初めには見てみようとも思っていなかった本と出会うことがある。その場では購入には至らずとも、今まで自分自身でも気づいていなかった興味の在処を知ることもできる。
こうした新しい知への扉を開いてくれる役割は、インターネット書店にはまだまだ担いきれていないと思う。そうした意味で、少なくとも現状では街から書店が消えることは文化の発展の機会が失われることに等しいと言えるだろう。

さて、今日久しぶりに書店に行き『月ノさんのノート』を買った。以前から気になってはいたが、そのまますっかり存在を忘れていた本である。それがコンピュータ関連の本を見ていたら、どういうわけか「動画編集」のコーナーに並んでいたのをきっかけに立ち読みし、ピンと来るものがあったので買うことにした。
VTuberに興味がない人でも耳にしたことがあるだろう月ノ美兎のエッセイだが、バーチャルな存在である彼女が書き下ろした本を、実際に店舗を構える書店で触れてみたことで購入に至ったのがなんとも面白いではないか。

帰宅して案の定一気に読み切ってしまい、やっぱり読書って自分にはコストパフォーマンスの良くない営みだなあと思ったのだが、その倍くらいの時間を掛けてこの文章を書けたのだから良しとしよう。
そしてどうか新しい知への扉を閉ざさないよう、本屋さんには頑張って欲しいと思うのである。

〜蛇足〜

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